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tma1のブログ

山崎雅弘「「天皇機関説」事件」

読了。


これは以前から感じていた疑問、少なくとも江戸時代までは庶民と天皇(帝)の関係は、太平洋戦争の時代のようなものではなかったのに一体いつから天皇と軍部が国民の命を塵芥のように擂り潰せる絶対的存在に?という疑問にも答えてくれるものでした。


1935年の天皇機関説排撃と続く国体明徴運動の以前にはロンドン軍縮条約や滝川事件があり、以後には二・二六事件がありと関連する事象の広がりはありましたが、天皇機関説事件からわずか半年の間にそれまで機能していた立憲君主制民主主義(大雑把にいえば、天皇と言えども憲法に従う)が機能停止に陥り、国粋主義者や軍部が天皇の権威と曖昧模糊とした「国体」なるものを振りかざして、逆らう天皇機関説や西洋的な立憲主義憲法学者や論者を圧殺し、個人主義自由主義を標榜する者を逆賊・非国民扱いして排斥するようになったということです。


その風潮は「国体の本義」「臣民の道」など政府がそれを是とし国民の常識として押し付ける文書を制定、流布、教育することで隅々まで行き渡りました。


結果、日本は万邦無比の世界に類のない神聖な国であり、民族は特に精神性、忠節心において優れており、西洋に目を向ける必要なしという奢りが生まれ、内向きの視野狭窄に陥った結果の開戦と敗戦となります。


かつて日露戦争においては、西洋の優れた技術や思想を積極的に取り入れた結果もあって大国ロシアとの戦争に勝てたのでしょう。太平洋戦争の失敗の原因は、この大国に勝ててしまったが故の軍部の慢心だという説も見かけますが、この天皇機関説事件について知ると、より根本的に全国民的に考え方が悪い方に偏向していたのだなと思われます。


現在は戦前回帰の雰囲気があるのではないかという著者の危機感も感じられるこの著作、今読む意義は高いのではと思います。