Blog:Neutron Star

tma1のブログ 「試行錯誤」・・・私の好きな言葉です

小説「駆逐艦キーリング」[新訳版] セシル・スコット・フォレスター

トム・ハンクス主演の映画「グレイハウンド」・・・なかなか配信されないですねぇ。Blu-rayも出てないのかな。

駆逐艦キーリング」はその原作小説。原題は「THE GOOD SHEPHERD」。キリスト教でおなじみの「良き羊飼い」ですが、解説の岡部いさく氏は聖書の中の「わたしは良い羊飼いである。良い羊飼いは羊のために命を捨てる」から来ているのだろうとしています。

常識で考えると羊飼いは自分の生活のために羊を飼っているのであって、その羊が何匹か犠牲になっても自分の命を懸けないだろうと思いますけど、その本末転倒な非常識性が人を惹きつける宗教性なのかもしれないですね。

でも、第二次世界大戦下、大西洋で船団護送を担っている駆逐艦は場合によっては自艦を盾にして他の艦を守ろうとする、まさに「良き羊飼い」でした。

もちろん、Uボート相手の戦闘と警戒の連続で戦争映画の原作にふさわしいと思うんですが、読書中に私が常に感じていたのは、艦長クラウスの強烈な足の痛み、猛烈な眠気、そしてコーヒーがぶ飲みの危険性でした(^^;)

作品内の時間は足掛け3日、48時間とちょっとなんですが、最初の半日以上は艦橋に立ちっぱなし。よろめきながら便所にいくようになってからは艦長用スツールに腰掛けながら。きついブーツに足を痛めつけられながら我慢してやっと脱いだときの痛みと天国の心地よさ。

そして、この足掛け3日の間に口にした水分と言えば、ホットコーヒーばかり。飲むときはポットが空になるまで3杯。4時間毎の当直士官の交代のときにほぼ毎回ポットを持ってこさせてる。コーヒーには利尿作用ありますからね、何度も便所にいくシーンがあるのも当たり前。こんなのきっとカフェイン中毒と脱水症状で身体は危険な状態になってるはず。

艦長クラウスは、1942年海軍兵学校卒業予定だったのが世界大戦勃発のせいか1年繰り上げで1941年卒業。1942年に駆逐艦キーリングの艦長になって、初の実戦を描いたがこの小説というわけです。

クラウスは父が牧師で母を幼少期になくし、男手のみで育てられた後、父の死後すぐに兵学校に入ったということで・・・よくあるアメリカの戦争映画でくだらないジョークを言い合うようなシーン、ありませんw

普通なら与太話をして部下と笑い合うようなシーン、ありませんwクラウスの独白の中で浮かんでくるのはジョークや皮肉の代わりに聖書の言葉ばかりwww

艦長として規律を厳格に守ろうとして、部下にもたとえ戦闘中でも報告は訓練どおりの型にはまった報告に言い直すよう求めます。自分にはそれ以上に厳しい規律厳守を課した結果が足の痛みというわけで。

別に部下を罵倒したりという痛いやつではないんですが、少なくとも下士官より下の水兵には好かれてないでしょうね。クラウスというドイツ姓を「クラウト」(ザワークラウト)と揶揄されてます。

そうですね、「バンド・オブ・ブラザース」の“ディック” リチャード・ウィンターズに似てる感じかな。ガルニアにメノナイト呼ばわりされたような。

私個人はこういう人物は嫌いではないですが。

1955年に刊行されたこの小説は、そのままではハリウッド受けしないものだと思うんですが映画でどう脚色したのか興味あります。