Blog:Neutron Star

tma1のブログ 「試行錯誤」・・・私の好きな言葉です

エミリー・ローズ

正直に言えば「エクソシスト」と同じようなものを予想して怖い物見たさで借りました。実際はちょっと違うもので、信仰と科学(というか一般常識)の両面での理解が可能な作品になっていました。舞台も悪魔祓いをしてエミリーを死に追いやったとされる神父の法的責任を問う法廷が中心でした。良作です。


なお実話とされている件ですが、映画自体はかなり脚色されているらしく、実際にあったこととしては1968年頃から医学的治療を受けていた少女の悪魔祓いがあって当人は結局1976年頃死亡したこと。悪魔祓いを行なった神父が裁判で有罪となったが刑は非常に軽微であったことのみと思った方が良さそうです。


エグさは「エクソシスト」から予想していたようにひどくはありませんでしたが、怖さは同等以上。安易な特殊メークに頼らず、エミリーを演じたジェニファー・カーペンターの熱演を前面に出した結果によるものと思われます。


全体の作りは違うんですがテーマは「エクソシスト2」の描いた物と共通していて、信仰の篤い者ほど悪魔憑きの対象になり悪魔による試しの場になると「信じている」キリスト教信者がいることが分かります。


当然というかこういった現象に悪魔の実在の証拠が認められるか?というのには私としては懐疑的です。悪魔が実在する証拠を世間に示すために自分の生命を差し出して苦痛を甘受した劇中のエミリーには申し訳ないのですが・・・。


劇中の検事と同じく、悪魔憑き状態のエミリーの行状はすべてエミリーの知識と経験から生じていると思います。まず、憑依しているとされる6人の悪魔が兄弟殺しカインの中にいた者だのユダの中にいた者だのネロの中にいた者だのレギオン(豚に憑いた悪霊の群れ)の中のひとりだの・・・つまりはキリスト教信者がキリストとキリスト教会の敵と考える者の中には悪魔がいたのだとする素朴な信仰が理性の力が弱まった状態でストレートに発現している状態に見えます。


ローマ人の物語」を読んでいる私としてはネロがローマ大火の犯人としてキリスト教信者を弾圧した一方で東方の治安を重視した政策の結果ユダヤ人達には人気があったことを知っています。だからなのかユダヤ民族の大敵で大量虐殺を行なったヒトラーの中には生粋のキリスト教信者は悪魔を認めないのだろうな・・・と皮肉な見方をしてしまいますが、戦後教育の賜物かエミリー(元ネタのAnneliese Michel)はヒトラーの中にも悪魔を認めるのですね。そしてそれがサタン=ルシファーやベリアルと同類の者だと。が恐らくエミリーが主張したかったのはシンプルに悪魔とは「中にいる者」だと脚本をひとまず理解してよいでしょう。


追記:元ネタのAnneliese MichelのWikipedia記事とごっちゃになっていました。エミリー・ローズが挙げた6人の悪魔は「カイン、ユダ、ネロ(たちの中にいた者)、レギオン(のひとり)、ベリアル、ルシファー」。Anneliese Michelが挙げた6人の悪魔は「カイン、ユダ、ネロ、フライシュマン、ヒトラー(たちの中にいた者)、ルシファー」フライシュマンというのはどうやら17世紀ドイツの僧侶らしいのですがブッチャーという異名があることから恐らく連続殺人の破戒僧だったんでしょう。ドイツ人のキリスト教徒ならではの人選?ですね。


無神論者というか不可知論者の私としては厳密に考えればそもそも聖書の朗読が、何故、悪魔に苦痛を与えるのか理解不能です。聖書に書かれたことは事実とは限らないし新約聖書のキリストの言葉を記した使徒行伝の部分に限っても執筆者が複数おり成立には数世代を要したことは聖書研究関係の本を読めば納得できます。もしかして悪魔は聖書の嘘の多さやキリスト教会の偽善を嫌がるのか?と思ったりもしますが(^^;)


聖母マリア信仰にしても生前はイエスの言動を理解せず邪魔ばかりしていた気がしますが、死後イエスの生みの母だというだけで美化されて信仰の対象になっているというのも私には解せません。が、それでも幻想の中で邂逅した聖母マリアに示したエミリーの自己犠牲の決意にはたとえ狂気が混入していたとしても感動と哀れみを誘われます。


憑依現象は日本にもあるということで、まぁ郷に入れば郷に従えというか・・・キリスト教信者なら悪魔憑きというところを狐憑きとか。本人が何を信じているかによって違うんでしょう。という風にこの憑依という現象は本人の精神世界の問題なので時に民間療法のような悪魔祓いやお祓いが効果を示すことは理解できます。(聖書やお経なども、本人が信じているならば)というのも、本人の身体に現れる一見、奇怪な症状・現象も本人自身が随意または不随意に起していると考えられるからです。


不可知論者として超自然現象についていえることはせいぜいが「知りえないことについては口をつぐむしか無い・・・」ですが、それが本当に超自然現象なのか?ということについては十分知らなくてはならないんじゃないでしょうか。


憑依や精神障害のきっかけは様々で虐待(性的虐待をかなり含む)なんかも多いようなので、この作品に関して言えばエミリーは最初の晩に性的暴行の犠牲になったのでは?という解釈もできるし劇中の表現もそういう解釈が可能なように作られています。


なお性的表現のある憑依関係ではその名も「ポゼッション」というイザベル・アジャーニ主演の作品が異色でした。触手の魔物・・・うーむ。


エミリー・ローズ」は怖い物見たさで興味を持った人には微妙な印象を与える作品とは思いますが・・・ただ、この映画を見ると多くの人が、深夜午前3時に時計を見るのが怖くなる・・・でしょう。焦げ臭いにおいがしたら御用心。「123456・・・」


ちなみにDVDのメニュー画面が怖いんですよ。本編より怖かった(^^;)


The Exorcism of Anneliese Michel

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How about Demons?: Possession and Exorcism in the Modern World (Folklore Today)

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ポゼッション [DVD]

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エクソシストとの対話

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